MOSの温度に対する変化について記載します。
MOSの温度特性
- Vthは温度が高いほど、下がる
- 移動度μも、温度が高いほど、下がる
- ドレイン電流の式 Ids = 1/2 μ Cox W/L (Vgs – Vth)^2 (1 + λ Vds)
- Vthとμは分けて考える
Vthを考える
直感的には、Vth は、半導体中のキャリアが電流として流れ出すために必要な電場のエネルギーと考えることができます。
ゲートとソース間に与える電場のエネルギーが、ある一定値を超えてはじめて電流が流れ出します。その一定値が Vth です。
キャリアの持つエネルギーは、電場の強さだけで決まるわけではなく、周囲の温度による熱エネルギーも、キャリアのエネルギーに加わります。
温度が高ければ高いほど、キャリアが得られる熱エネルギーも増えていきます。
これが、キャリアが電流として流れ出すことを後押しすることになります。つまりキャリアは、熱エネルギーの後押しを受けると、普段よりも少ない電場エネルギーで流れ出すことができます。
これを別の言い方をすると、「Vth が下がる」となります。これが、Vth の温度特性に関する物理的背景です。
「温度が上がるとキャリアが得られる熱エネルギーが増える。よって、キャリアが流れやすくなり、結果的に Vth が下がる」と覚えて下さい。
μを考える
Vth は、キャリアがドレイン電流として流れ出すまでの物理であるのに対し、移動度 μ は、ドレイン電流に昇格した後の物理ですので、分けて考えなければなりません。
電流に昇格した後のキャリアは、ドレイン-ソース間にかけた電場によって加速します。
しかし、半導体の中に多数存在する原子核に衝突して減速します。
1つ1つのキャリアが加速と減速を繰り返し、次第にある安定な状態で両者が釣り合うようになり、ドレイン電流の大きさが決まります。
ある電場を加えた時にどこで釣り合うかは物質によって異なり、それを移動度 μ と表すわけです。つまり、減速しやすい物質は、μ が小さくなります。
キャリアの行く先を邪魔する原子核は、キャリアのように物質中を移動することはできません。しかし、その場で黙ってじっとしているかと言うと、そうではありません。その場で激しく振動しているのです。そして、激しく振動するほど、キャリアが原子核に衝突する確率が大きくなります。この振動の大きさは、原子核の持つ熱エネルギーによって決まります。つまり、「温度が高いほど原子核の熱エネルギーが大きくなり、振動が激しくなって、キャリアがぶつかりやすくなるために移動度が下がります。」これが、移動度の温度特性が負になる理由です。
まとめ
結局、Vth と μ の温度特性は、どちらも負ということになりました。
しかし、温度を上げるとドレイン電流が必ず小さくなるかというと、そうではありません。
ここでもう一度、ドレイン電流の式 Ids = 1/2 μ Cox W/L (Vgs – Vth)^2 (1 + λ Vds) を思い出して下さい。
Vth は、(Vgs - Vth)として登場しています。Vth の前にマイナスがついていますので、(Vgs - Vth)の温度特性は正となります。
よって、μ と(Vgs - Vth)は互いに逆の温度特性を持つことになります。
そのために、温度を上げると電流が増えるか減るかは、はっきりと決まらず、Vgs に依存します。
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